1992年の夏、テレビから流れてきたあの声を覚えていますか。空に突き抜けるようなハイトーンで「You’re the Only…」を歌い上げる青年。カラオケで挑んで玉砕した人も多いはずです。あれから30年以上が経ちました。「そういえば、あの人は今どうしているんだろう」——実は小野正利さんは、消えるどころかとんでもない場所に立っています。ヘヴィメタルバンドのボーカリスト、アニメソングで海外にファンを持つ歌い手、そして59歳でシティポップに挑む現役シンガー。その全部が、同じ一人の人の現在なんです。

01小野正利さんのプロフィール

名前
小野 正利(おの まさとし)
生年月日
1967年1月29日(2026年8月時点で59歳)
出身地
東京都足立区
デビュー
1992年5月21日/ソニー・レコードよりシングル「ピュアになれ」
代表曲
「You're the Only…」(1992年8月・114万枚超)
現在の所属バンド
GALNERYUS(2009年〜/ボーカル)
声域
デビュー当時から4オクターブとされるハイトーンボイス
その他の活動
ボーカルスクール「Bese〜美声〜」主任講師、YouTube配信

デビューが5月21日、そして今も毎年その日にライブをやっている——このこだわり方が、もう小野正利さんという人を物語っている気がします。

02全盛期の活躍――114万枚のバラード

3枚目のシングルで一気に国民的ヒット

デビューは1992年5月。1枚目、2枚目はまだ静かな立ち上がりでした。ところが同年8月にリリースされた3枚目のシングル「You’re the Only…」が、フジテレビ系ドラマの主題歌に起用されたことで状況が一変します。売上は114万枚を超え、いわゆるミリオンセラーに。25歳の新人がいきなり国民的ヒット曲の主になったわけです。

あの曲の何がすごかったかというと、やはりサビの突き抜け方でしょう。当時のJ-POPには男性ボーカルのバラードがたくさんありましたが、あそこまで澄んだ高音で押し切る人はほとんどいませんでした。声そのものが楽器のようで、一度聴いたら誰の曲かわかる。それが小野正利さんの武器でした。

新人賞を総なめにした1992年

その年の暮れ、小野正利さんは新人賞レースをほぼ制圧します。日本レコード大賞の新人賞、日本ゴールドディスク大賞のグランプリおよびニューアーティスト賞、日本有線大賞最優秀新人賞、ゴールデンアロー賞新人賞など、複数のタイトルを獲得。さらに同年、NHK紅白歌合戦への初出場も果たしました。デビュー1年目でこれだけ並ぶのは、当時としても異例の勢いです。

ツアーとホールコンサートの90年代

1993年からは全国ツアーやホールコンサートを本格展開。ハイトーンを生で聴かせる歌手として、ライブ動員でも支持を広げていきます。1997年にはメルダックへ移籍し、このころから作詞・作曲にも取り組み始めました。歌わせてもらう人から、自分で作る人へ。地味ですが大きな転換点だったはずです。

03ヒット曲のあとに訪れた長い模索

ミリオンヒットは祝福でもあり、重い荷物でもあります。「You’re the Only…」があまりに大きかったぶん、その後のシングルはどうしても比較されました。90年代後半から2000年代前半、小野正利さんの名前をテレビで見る機会は明らかに減っていきます。

ただ、活動が止まっていたわけではありません。2002年にはゲーム音楽への参加を通じて、それまでとまったく違う層のファンを獲得します。テレビの歌番組ではなく、作品の中で声が届く。この経路の発見が、のちのアニメソングやメタルへの道につながっていったように見えます。さらに2006年にはボーカルスクールを開設し、教える側にも軸足を作り始めました。

  • 1992年5月シングル「ピュアになれ」でソニー・レコードよりメジャーデビュー。
  • 1992年8月3rdシングル「You're the Only…」がドラマ主題歌となり114万枚超の大ヒット。
  • 1992年末日本レコード大賞新人賞など各賞を受賞し、NHK紅白歌合戦に初出場。
  • 1997年メルダックへ移籍。作詞・作曲活動を開始する。
  • 2002年ゲーム音楽への参加により、新たなファン層を獲得。
  • 2006年ボーカルスクール「MOVE」を開設し、後進の指導を始める。
  • 2009年パワーメタルバンドGALNERYUSのボーカリストとして正式加入。
  • 2010年ボーカルスクール「Bese〜美声〜」を開校、主任講師を務める。
  • 2011年12月GALNERYUSの「Departure!」が『HUNTER×HUNTER』OP主題歌に。
  • 2012年同作のエンディングテーマも担当。著書『限界を超えるハイ・トーンが出せる本』を出版。
  • 2017年デビュー25周年を機にワーナーミュージック・ジャパンと契約、カバーアルバムをリリース。
  • 2020年公式YouTubeチャンネルを開設。
  • 2022年新曲「祈」が『終末のワルキューレⅡ』エンディングテーマに決定。
  • 2023年9月約19年ぶりのオリジナルフルアルバム『THE TIES OF AFFECTION』を発売。
  • 2026年2月デジタルシングル「Love in Gradation」を配信リリース。
  • 2026年7月GALNERYUS通算14枚目のアルバム『A CRY FROM THE SKY ABOVE』を発売。

04メタルバンド加入という第二の人生

「あのバラードの人」がパワーメタルへ

2009年、小野正利さんはギタリストのSYUさんを中心とするパワーメタルバンド、GALNERYUS(ガルネリウス)のボーカリストとして正式加入します。当時これを聞いて「え、あの小野正利?」と二度見した人は相当いたはずです。しっとりしたバラードの人と、疾走するツインペダルの世界。イメージは真逆に見えます。

でも考えてみると、これほど理にかなった転身も珍しいんです。パワーメタルというジャンルが最も欲しがるのは、轟音を突き抜ける圧倒的なハイトーン。小野正利さんが持っていたものは、まさにそれでした。J-POPのバラードでは「きれいな高音」だったものが、メタルの中では「武器としての高音」に変わった。同じ声の別の使い道が見つかった転職だったと言えます。

アニメ主題歌で世界に届いた声

加入後の大きな成果が、2011年12月にアニメ『HUNTER×HUNTER』のオープニング主題歌となった「Departure!」です。さらに翌2012年には同作のエンディングテーマもGALNERYUSが担当し、同じボーカルがOPとEDを兼務するという珍しい形が実現しました。

この曲が効いたのは国内だけではありません。アニメを通じて海外に小野正利さんの声が広まり、その後アジア、ヨーロッパ、アメリカのアトランタ、メキシコなど各地で歌う機会につながっていきます。2024年にはポーランド、2025年にはジョージアや香港でも公演を行いました。日本のアニメフェスに招かれたときの光景について、本人はこう語っています。

失神しちゃうんじゃないかぐらい熱狂していて、それを見ると、本当にありがたいなと思います 出典:MANTANWEB 2024年12月15日

教える人としての小野正利

もう一つの柱が指導です。2010年に開校したボーカルスクール「Bese〜美声〜」で主任講師を務め、2012年には『限界を超えるハイ・トーンが出せる本』も出版しました。自分の声の出し方を言語化して他人に渡す作業は、歌うこと以上に難しいはずです。それを本にまでできるのは、感覚だけで歌ってきた人ではないという証拠でしょう。

052026年現在の活動

59歳の誕生日ライブで、シティポップに挑んだ

2026年1月29日、小野正利さんは59歳の誕生日に「Masatoshi Ono Birthday Live 2026 ― COUNT DOWN ―」を鶯谷のダンスホール新世紀で開催しました。そこで初披露されたのが新曲「Love in Gradation」。シティ・ポップ調のアーバンなラブソングで、これまでのキャリアにはなかったタイプの楽曲です。MCでは制作の動機をこう明かしています。

いままで歌ってきていないタイプの曲をやろうと。ただ難しいですよ 出典:PR TIMES(株式会社シブヤテレビジョン)2026年2月5日

59歳で「難しいですよ」と言いながら未経験のジャンルに手を出す。ここが本当に小野正利さんらしいところだと思います。楽曲は2026年2月6日にデジタルシングルとして配信リリースされ、各種ストリーミングで聴けるようになりました。ライブのタイトルに「COUNT DOWN」と付いているのは、2027年に迎えるデビュー35周年と還暦イヤーへの助走という意味だそうです。

テレビでもあの声は健在だった

2026年6月28日、小野正利さんは「テレ東音楽祭2026夏」に出演。「You’re the Only…」やデビュー曲「ピュアになれ」を披露し、変わらないハイトーンでSNSを沸かせました。放送直後には本人の名前がリアルタイム検索でまとめられるほどの反応があり、「あの人は今」ではなく「あの声は今も」だったことが広く確認された一夜でした。

続く7月9日には「AROUND 40 MEMORY CONCERT -FOREVER-」にも出演。90年代の記憶と一緒に呼ばれる場に立ちながら、懐かしさだけでは終わらせないのが今のスタイルです。5月21日のデビュー記念日にも恒例のライブを開催し、ゲストにGET BILL MONKEYSを迎えました。

GALNERYUSは新アルバムと全国ツアー

バンド活動も止まりません。GALNERYUSは2026年7月15日、通算14枚目のフルアルバム『A CRY FROM THE SKY ABOVE』をリリースしました。前年に20周年ツアーを終えたバンドの現在地を示す作品で、シンガロングパートが充実し、以前より歌が前面に出た内容だと評されています。制作について本人は「前向きに、なるべくまっすぐな気持ちで歌っています」と語りました。

そして8月5日の川崎公演から、リリースツアー「THE CRY ECHOES THROUGH THE SKY TOUR 2026」がスタート。新潟、長野、名古屋、仙台、札幌、大阪、広島、福岡と全国10か所を回り、9月5日の東京・GARDEN新木場FACTORY公演でファイナルを迎えます。つまりこの記事を読んでいる今まさに、小野正利さんはツアーの真っ只中にいるということです。

YouTubeの「歌ってみた」とSNS

2020年に開設した公式YouTubeチャンネルでは、カバー動画のシリーズが好評を集めています。X JAPANの「ENDLESS RAIN」、中島美嘉さんの「雪の華」、クリスタルキングの「大都会」など難曲揃いで、コメント欄には「唯一無二の声」「未だ健在」といった声が並んでいるとのこと。SNSでは公式Xやオフィシャルサイトを通じて情報発信を続けています。

声を保つ秘訣は「ちゃんと歌ってちゃんと寝る」

これだけ動いてハイトーンが落ちない理由を、小野正利さんは意外なほど地味に説明しています。ライブ後のケアはとにかく睡眠。そして自分にとって無理のない歌い方を選ぶこと。コロナ禍で歌わない期間が続いたときに声帯が衰えるのを実感し、「ちゃんと歌ってちゃんと寝る」ことの大切さに行き着いたそうです。そのうえで、今後についてはこう宣言しています。

生涯現役でいけるかなと思っています 出典:MANTANWEB 2024年12月15日

06まとめ――歌い続ける59歳の現在地

「小野正利は今何してる?」の答えは、ひとことで言えば「昔よりジャンルが増えている」です。1992年のミリオンヒットを大事に歌いながら、メタルバンドのフロントマンを17年続け、アニメソングで海外に呼ばれ、後進を指導し、59歳でシティポップに手を伸ばす。懐かしさの棚に収まる気がまるでない人です。

小野正利 2026年現在まとめ

  • 1992年「You're the Only…」で114万枚超のヒット、新人賞を多数受賞し紅白初出場
  • 2009年からパワーメタルバンドGALNERYUSのボーカリストとして活動
  • 『HUNTER×HUNTER』主題歌などアニメを通じて海外にもファンが広がる
  • 2026年1月29日の59歳バースデイライブで新曲「Love in Gradation」を初披露
  • 2026年2月6日、初挑戦のシティポップ調デジタルシングルを配信リリース
  • 2026年6月28日「テレ東音楽祭2026夏」に出演し代表曲を披露
  • 2026年8月からGALNERYUS全国10公演のツアーを開催中、2027年はデビュー35周年

2027年、小野正利さんはデビュー35周年と還暦を同時に迎えます。バースデイライブに「COUNT DOWN」と付けたのは、たぶんゴールへのカウントダウンではなく、次の何かが始まるまでの秒読みなのでしょう。あのハイトーンがどこへ向かうのか、まだ当分は追いかけられそうです。